最良のパートナーだったローズとの悲しい別れを経て、孤独な時空の旅を続けるドクター(デイヴィッド・テナント)。そんな彼と出会ったのが医学生マーサ・ジョーンズ(フリーマ・アジマン)だ。
病院の研修医として働いていたマーサは、ある時いきなり病院ごと月へと瞬間移動してしまう。それは、病院内に紛れ込んだ指名手配中のエイリアンを探す宇宙の雇われ警察ジュドゥーンの仕業だった。地球が宇宙基本法の管轄外であるため、病院を丸ごと月へと移して捜索しようというのである。周囲の同僚や患者がパニックに陥る中、なんとか冷静に立ち振る舞おうとするマーサ。そこへ現れた心強い味方がドクターだったというわけだ。
好奇心が旺盛で物事に先入観を持たず、不測の事態にも臨機応変かつ柔軟に対応していく聡明なマーサは、まさしくドクターの新しい相棒にうってつけ。やんちゃなお転婆娘のローズとは違った視点から、ドクターの冒険をしっかりとサポートしていく。お茶目でクレイジーなドクターに寄せる、彼女の淡い恋心の行方も気になるところ。彼がローズへの想いを引きずっていることを十分理解しているだけに、なんとか自分の気持ちを抑えようとするマーサの心情が健気で切ない。
さらに、今シーズンでは新たな敵がドクターの前に立ちふさがり、人類が絶体絶命の危機に陥ることとなる。それは、シーズン2から随所で名前だけが触れられてきたサクソン氏という人物。今シーズンでもドクターの周辺に彼の存在がチラつくのだが、やがてその意外な正体と恐るべき目的が明らかとなっていく。果たして、サクソン氏とはいったい何者なのか?3部作構成で語られていく緊迫のシーズン・クライマックスは必見だ。
また、ドクターの故郷を破壊したお馴染みの宿敵ダーレクの残党も再び登場。1930年代のニューヨークを舞台にドクターとダーレクの戦いが繰り広げられていくのだが、その中ではノスタルジックなムードと共にエンパイアステート・ビルの意外(?)な建設目的などが語られていく。こうした虚実の入り乱れるストーリーというのも「ドクター・フー」の魅力の一つ。他にも、16世紀半ばのロンドンへとやって来たドクターとマーサが、シェイクスピアと一緒に魔女を退治するという楽しいエピソードも。予想を覆すシェイクスピアの破天荒なキャラクターは勿論のこと、フィクションとはいえ気の利いた「マクベス」や「ハムレット」の誕生秘話(?)もユニークで面白い。
お馴染みといえば、シーズン1からたびたび出てくる巨顔のエイリアン、フェイス・オブ・ボーも再び登場。彼の残した言葉がサクソン氏の正体を示唆するヒントとなっているのも見逃せない。
迫力満点の特殊視覚効果、痛快なバトル・アクション、抱腹絶倒のシュールな笑いなどを散りばめながら、豊かな感情を持つ人間という存在の面白さ、哀しさ、愚かさ、素晴らしさを描いていく見事なストーリー。オフビートでクレイジーな言動の裏に、故郷や家族を失った孤独と哀しみを秘めたドクターの、人間臭いキャラクターも魅力的だ。
このように、新たなパートナーを得たドクターのさらなる危険と冒険に満ちた活躍が描かれていくシーズン3。時空を行き来するという設定をこれまで以上にフル活用し、ストーリーのあちこちで伏線が張られているのも大きな見どころだろう。
なので、あるエピソードのストーリー背景が全く別のエピソードと繋がっていたり、ある不可解な出来事の意味がかなり後になって判明したりする。その計算し尽くされた脚本は見事というほかないだろう。

相変わらずチャーミングでハンサムなドクター役のデイヴィッド・テナントも、今回はどこか哀しみを背負っているところがあって、時折見せる憂いを含んだ表情がなんとも魅力的。マーサ役を演じるフリーマ・アジマンのキュートでスマートな親しみやすさもファンを虜にすることだろう。
もちろん、最新のVFX(特殊視覚効果)を駆使したイマジネーション豊かで壮大なビジュアル・デザイン、英国流のシュールでブラックなユーモアを織り交ぜた語り口、そして奇想天外な物語の中に込められた文明論的なテーマなど、シーズン1以来一貫して描かれてきた「ドクター・フー」ならではの奥深い世界観も健在だ。